米国市場での日本茶・抹茶の需要は年々高まっており、「そろそろアメリカ向けの輸出を検討したい」という製茶会社様も増えています。
その際、ほぼ必ず出てくるのが次の疑問です。
- うちの茶葉は、米国向けとして問題ないのか?
- 日本の基準を守っていれば大丈夫なのでは?
- 残留農薬はどこまで確認すればいいのか?
本記事では、米国輸出を検討し始めた段階で最低限知っておくべき「残留農薬の考え方」を、できるだけ分かりやすく整理します。
目次
結論:米国の残留農薬ルールは「日本とは考え方が違う」
まず最初に押さえておきたいポイントは、米国では「日本でOKかどうか」と「米国でOKかどうか」は別物だという点です。
日本では:
- 農薬取締法で登録されている
- 残留基準値以下である
ことが重視されます。
一方、米国では:
- その農薬が、その作物(Tea)に対してEPAでMRL(Tolerance)を持っているか
これだけが判断基準になります。
つまり、日本で適正に使用されている農薬でも、米国の基準では「Tea(茶)に対する登録がない」場合、輸出時に問題になる可能性があるということです。
米国の残留農薬基準はどこで決まっているのか
米国の残留農薬基準は、eCFR(Electronic Code of Federal Regulations)40 CFR Part 180にすべて記載されています。
ここでは、
- 農薬ごと
- 作物ごと(Tea, dried など)
に、明確な数値(Tolerance)が設定されています。
重要なポイント
Tea(茶)に対する記載がない農薬は、「基準がない」=「検出されると問題になる可能性がある」という扱いになります。
この点が日本の考え方と大きく異なります。日本では「ポジティブリスト制度」により一定の基準値が適用されますが、米国ではTea向けに明示的に登録されていない農薬は原則的に使用できないという考え方です。
よくある誤解①「日本で問題ないから、米国でも大丈夫」
これは非常によくある誤解です。
日本で問題なく使われている農薬でも、
- 米国では未登録
- Teaに対するMRLが設定されていない
というケースは珍しくありません。
そのため、
- 日本基準は守っている
- EUにも出している
- 有機JAS認証を取得している
という茶葉でも、米国向けとしては注意が必要な場合があります。
特に注意が必要なのは、日本独自の農薬や、アジア圏で広く使われているが欧米では登録が少ない農薬です。これらは日本国内では問題なく使用できますが、米国輸出時には障壁となる可能性があります。
よくある誤解②「殺菌剤は残留しにくいから心配ない」
「殺菌剤は分解が早い」「残留しにくいと聞いている」という話を耳にすることもあります。
ただし、米国の輸入規制では、
- 残留しやすいかどうか
- 毒性が強いかどうか
ではなく、
「Teaに対するMRLがあるかどうか」がすべてです。
理論上、ごく微量でも検出されれば問題になる農薬も存在します。実際に、0.01ppm以下という非常に低い残留量でも、MRLが設定されていない農薬の場合は輸入差し止めの対象となったケースがあります。
抹茶の場合は、さらに注意が必要
抹茶は、茶葉をそのまま粉砕する製品です。そのため、残留農薬に関して特に注意が必要です。
抹茶特有のリスク:
- 茶葉では検出されにくいレベルの残留でも、抹茶では濃縮されて検出される
- 茶葉は抽出するため残留農薬の多くは茶殻に残るが、抹茶は全体を摂取するため残留農薬も全量摂取することになる
- 米国市場では抹茶の人気が高く、検査頻度も高い傾向にある
「茶葉では問題なさそうだから大丈夫」という判断が、抹茶では通用しないこともあります。
抹茶を米国に輸出する場合、茶葉以上に慎重な農薬管理が求められます。特に、無農薬栽培や有機栽培の抹茶は米国市場で高い評価を受けています。
では、何から確認すればいいのか
米国輸出を検討する初期段階では、いきなり全ロットの残留検査を行う必要はありません。
まず重要なのは:
- 使用している農薬の一覧を把握する(商品名→有効成分)
- その有効成分が、Teaに対してeCFR上でMRLを持っているか確認する
この段階で、「そもそも使わない方がよい農薬」をかなりの割合で絞り込むことができます。
具体的な確認手順:
- 農家・生産者から使用農薬リストを入手する(商品名と使用時期)
- 商品名から有効成分(化学名)を特定する
- eCFR 40 CFR Part 180で該当農薬を検索
- 「Tea, dried」または「Tea」の項目があるか確認
- MRL(Tolerance)の数値を確認
この作業により、米国向けに問題となる可能性のある農薬を事前に特定できます。
簡易スクリーニングで初期リスクを把握する
当社では、米国輸出を検討中の製茶会社様向けに、以下のような簡易スクリーニングを行っています。
- 最新のeCFR(40 CFR Part 180)を参照
- 使用農薬リストをTea/抹茶向けの視点で簡易チェック
- リスクのある農薬を特定
このスクリーニングが役立つ場面:
- 「この農薬は米国向けに問題ないか?」を事前確認したい
- 検査に出す前にリスクを把握したい
- 農家から上がってきた農薬リストを確認したい
- 米国向け専用の栽培体制を構築したい
- 複数の生産者・圃場を管理している
これは、検討初期段階の確認を目的としたものです。正式な残留検査の前段階として、リスクの高い農薬を特定し、栽培計画の見直しや代替農薬の検討に活用できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 日本で有機JAS認証を取得していれば、米国でも問題ないですか?
A. 有機JAS認証は日本の有機基準を満たしていることを示しますが、米国向けにはUSDA Organic認証が別途必要です。ただし、有機栽培の場合は化学合成農薬を使用していないため、残留農薬の問題は基本的に発生しません。
Q2. 既に茶葉を生産してしまった後でも対応できますか?
A. 既に生産済みの茶葉については、残留農薬検査を実施して問題がないことを確認する必要があります。ただし、MRLが設定されていない農薬が検出された場合、その茶葉を米国に輸出することは困難です。
Q3. 全ての農薬について検査が必要ですか?
A. 使用した農薬のみを対象とした検査で問題ありません。ただし、隣接圃場からのドリフト(飛散)の可能性がある場合は、使用していない農薬についても検討が必要な場合があります。
Q4. EUに輸出している茶葉なら、米国も問題ないですか?
A. EUと米国では農薬の登録状況が異なります。EUで問題なくても米国でNGの農薬も存在するため、別途確認が必要です。
Q5. どのタイミングで確認するのが最適ですか?
A. 栽培計画を立てる段階、つまり農薬を使用する前に確認するのが最も効果的です。既に使用してしまった農薬については変更できないため、次年度に向けた改善に活用できます。
まとめ
米国向けの茶葉・抹茶輸出では、
- 日本の基準を守っているか
- 残留量が少なそうか
よりも、
「eCFR上で、Teaに対するMRLがあるかどうか」が最初の分かれ道になります。
「うちの茶葉は大丈夫だろうか?」と感じた段階で、一度整理しておくことで、後工程のリスクを大きく減らすことができます。
特に重要なのは、栽培計画の段階から米国基準を意識することです。既に使用してしまった農薬を後から変更することはできませんが、事前に確認しておけば、米国向けに適した農薬選択が可能になります。
米国向け茶葉輸出をご検討の方へ
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「まずは自社の茶葉が米国向けに問題ないか確認したい」という段階から対応可能です。


