米国トランプ政権は2026年7月23日、通商法301条に基づく新たな追加関税を正式発表しました。日本を含む60の国・地域が対象で、米国東部時間7月24日午前0時1分(日本時間24日午後1時1分)に発動します。
日本から米国へ食品を輸出している、あるいはこれから始めようとしている事業者にとって、これは「税率が変わった」だけの話ではありません。計算方法そのものが変わったため、品目によっては負担が増える会社と、逆に減る会社が同時に発生します。
この記事では、公式資料(USTRの官報案・ファクトシート)にあたって確認した内容をもとに、対米食品輸出の実務に必要な部分だけを整理します。
目次
- 1. 結論:まず押さえるべき5点
- 2. ここまでの経緯:1年で3回変わった法的根拠
- 3. 「MFN差分方式(net of MFN)」の仕組み
- 4. 除外される品目:3つのカテゴリ
- 5. 発動直前・直後の実務対応
- 6. 2025年に払ったIEEPA関税は還付される
- 7. 少額貨物(de minimis)はもう戻ってこない
- 8. 関税より先に詰めるべき:FDA側の要件
- 9. 対米食品輸出の実務チェックリスト
- 10. よくある質問
- 11. 一次情報リンク
- 12. 本記事の位置づけと注意事項
1. 結論:まず押さえるべき5点
- 日本産品の新税率は「MFN税率と合わせて12.5%」(上乗せではなく合計値の上限)
- 発動は2026年7月24日 0:01 AM ET。それまで適用されていた一律10%の代替関税(通商法122条)は同日失効
- MFN税率が12.5%以上の品目は、301条関税ゼロ(つまり実質的に据え置き)
- 茶・コーヒー・香辛料など一部の農産品は除外リスト(Annex)に入っているとされる。自社のHTSコードが除外対象かどうかで結論が180度変わる
- 関税以外の要件(FDA施設登録・FSVP・Prior Notice)は一切変わっていない。2026年は施設登録の更新年(10月1日〜12月31日)
2. ここまでの経緯:1年で3回変わった法的根拠
対米輸出の関税がここまで分かりにくくなっているのは、課税の「法的根拠」が短期間に3回も差し替わったためです。
| 時期 | 根拠法 | 日本産品への扱い |
|---|---|---|
| 2025年〜2026年2月 | IEEPA(国際緊急経済権限法)による相互関税 | 日米合意により、MFNと合わせて15%が上限 |
| 2026年2月20日 | 連邦最高裁がIEEPA関税を無効と判断 | 徴収停止・還付へ |
| 2026年2月24日〜7月24日 | 通商法122条(国際収支対応の暫定課徴金) | 全世界一律10%をMFNに上乗せ(150日間の時限措置) |
| 2026年7月24日〜 | 通商法301条(強制労働品の輸入禁止措置の不備を理由) | MFNと合わせて12.5% |
ポイントは、**122条の10%は「上乗せ」だったのに対し、301条の12.5%は「合計値の上限」**であることです。ここを取り違えると、着地コストの計算が丸ごとずれます。
なお今回の301条は「強制労働で生産された産品の輸入禁止措置を、各国が導入・執行していない」ことを理由としています。USTRは日本についても「輸入禁止措置が導入されていない」と認定し、より高い12.5%の区分に分類しました。対象は米国の輸入額の約99.4%をカバーする60の貿易相手です。
3. 「MFN差分方式(net of MFN)」の仕組み
USTRの官報案では、日本産品について次のように規定されています。
- MFN税率が 12.5%未満 の場合 → MFN + 301条関税 = 12.5% になるよう301条関税を課す
- MFN税率が 12.5%以上 の場合 → 301条関税は0%
つまり日本産品の追加関税は「12.5%の天井」として機能します。
計算例(MFN税率別)
| MFN税率 | 7月23日まで(MFN + 122条10%) | 7月24日から(301条・合計12.5%) | 差分 |
|---|---|---|---|
| 0% | 10.0% | 12.5% | +2.5pt |
| 3.0% | 13.0% | 12.5% | −0.5pt |
| 6.4% | 16.4% | 12.5% | −3.9pt |
| 12.5% | 22.5% | 12.5% | −10.0pt |
| 20.0% | 30.0% | 20.0%(301条ゼロ) | −10.0pt |
MFNが無税の品目だけが負担増になり、MFNが高い加工食品はむしろ下がるという、直感に反する構造です。自社商品がどちらに転ぶかは、HTSコードを引かないと判断できません。
注意: 上表のMFN税率は仕組みを説明するための例示です。実際の税率は必ず米国国際貿易委員会のHTS検索(hts.usitc.gov)で自社の10桁コードを確認してください。
HTSコードの「7〜8桁目」が命運を分ける
食品では、わずかな仕様差で税率が変わります。緑茶を例にとると、同じ0902.10でも枝番によってMFN税率が異なり、フレーバー付きかどうかで扱いが変わります。「だいたいこの分類」で通してきた会社ほど、今回の変更で想定外のコストが出ます。
4. 除外される品目:3つのカテゴリ
今回の301条関税には、以下が対象外とされています。
(1) 通商法232条の対象品目
鉄鋼・アルミ・銅などの232条関税がかかる品目と、その部品は301条の対象外です。301条と232条は積み上がりません。
食品事業者にとっての盲点は包装資材です。2026年4月の大統領布告で232条の派生品規制が見直され、対象品目は課税価格の全額に対して課税される方式に変わりました。缶・アルミ箔・金属製容器を含む商材は、自社のHTSコードが232条リストに載っていないか確認が必要です。
(2) Annex I / Annex II の除外品目
USTRは、①国内供給が確保できなくなる原材料、②経済全体に混乱を与える産品、③米国内で十分な量を生産・栽培できない産品、などを除外リストに指定しました。全対象国に共通で適用される除外は、CBPのガイダンス(CSMS #69326983)で 9903.05.86 として整理されており、対応するHTSコードの一覧が「Forced Labor HTS List」として公表されています。
食品分野で除外対象に入っている主なものは以下のとおりです。
| 分野 | 除外されているHTS(例) |
|---|---|
| 茶(緑茶・抹茶を含む) | 0902.10.10 / 0902.10.90 / 0902.20.10 / 0902.20.90 / 0902.30.00 / 0902.40.00 |
| コーヒー | 0901.11.00 / 0901.12.00 / 0901.21.00 / 0901.22.00 ほか |
| カカオ・チョコレート原料 | 1801.00.00 / 1802.00.00 / 1803 / 1804 / 1805 |
| 香辛料 | 0904〜0910の多く(こしょう、シナモン、ナツメグ、しょうが等) |
| 牛肉 | 0201 / 0202 の多く |
| 一部の豆・いも・ナッツ・熱帯果実 | 0713 / 0714 / 0801〜0812 の一部 |
| 茶のエキス(一部) | 2101.20.20 |
→ 注意すべきは「同じ原料でも加工度が上がると除外から外れる」点です。 例えば茶葉・抹茶そのもの(0902)は除外ですが、砂糖や乳成分を加えた抹茶ラテミックスやチョコレート菓子は別の分類(2101.20の他の枝番、1806、2106など)になり、多くが課税対象です。
除外対象かどうかは、必ず10桁のHTSコード単位で「Forced Labor HTS List」を確認してください。「農産品だから大丈夫」という一般論では判断できません。
(3) 情報資料・寄贈品・携帯手荷物
商業輸出には基本的に無関係ですが、サンプルの持ち込み等では確認する価値があります。
5. 発動直前・直後の実務対応
在途貨物(in-transit)の救済措置がある
以下の両方を満たす貨物は、新関税の対象外です。
- 2026年7月24日 0:01 AM ET より前に、船積港で本船に積み込まれ、最終輸送区間を輸送中であること
- 2026年7月28日 0:01 AM ET より前に、消費のための輸入申告(または保税倉庫からの引き取り)が完了していること
該当しそうな貨物がある場合は、通関業者に「7月28日の期限内に申告できるか」を今すぐ確認してください。 4日間しかありません。
FTZ(外国貿易地域)を使っている場合
新関税の対象品目をFTZに搬入する場合、原則として「privileged foreign status」でのみ搬入が認められます。FTZを使った関税繰り延べ戦略を組んでいる場合は、設計の見直しが必要です。
6. 2025年に払ったIEEPA関税は還付される
見落とされがちですが、2025年3月〜2026年2月にIEEPA関税を支払った輸入者は還付請求ができます。
- 連邦最高裁が2026年2月20日にIEEPA関税を無効と判断
- CBPは**CAPE(Consolidated Administration and Processing of Entries)**という仕組みをACEポータル内に構築し、2026年4月20日からPhase 1の請求受付を開始
- 請求は自動ではなく、輸入者(IOR)または権限を持つ通関業者がCSV形式の「CAPE Declaration」をアップロードする方式
- 還付はACHによる電子送金のみ。ACE口座に米国銀行口座(ACH Refund Authorization)が登録されていないと、還付がreject扱いになります
日本の輸出者が米国側のIOR(輸入者)を務めているケース、あるいは自社の米国法人がIORになっているケースでは、放置すると取り戻せる現金を取り逃します。 通関業者に「うちのIEEPA分の請求状況はどうなっているか」を確認してください。
還付対象はIEEPA分のみで、MFN・232条・301条など適法に徴収された税は対象外です。
7. 少額貨物(de minimis)はもう戻ってこない
DTCやAmazon FBAの直送を検討している事業者に、最も影響が大きいポイントです。
- 800ドル以下の免税枠(de minimis)は2025年8月29日に全世界向けに停止
- 最高裁のIEEPA判決でも復活していません(根拠となる法的権限が別だったため)
- さらに法律上、2027年7月1日に商業貨物向けは恒久的に廃止されます
つまり、「小口で送れば関税がかからない」という前提の価格設計はもう成立しません。 すべての貨物に正式な通関と関税が発生する前提で、着地原価を組み直す必要があります。
8. 関税より先に詰めるべき:FDA側の要件
関税の話題に気を取られがちですが、FDA要件を満たしていない食品はそもそも米国に入りません。 税率がいくらであっても関係ありません。
必須の4点
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 施設登録(Food Facility Registration) | 製造・加工・包装・保管を行う施設はFDAに登録。2026年は更新年で、10月1日〜12月31日が更新期間。期限を過ぎると登録は失効し、貨物は輸入拒否されます |
| US Agent(米国代理人) | 外国施設は米国内の代理人を指定する必要があります |
| Prior Notice(事前通知) | 出荷ごとに提出。到着の15日前以降、かつ航空便は到着2時間前まで、海上・陸上は4時間前までに提出 |
| FSVP(外国供給業者検証プログラム) | 米国側の輸入者が、供給業者の食品安全を検証する義務を負います。輸入者側の義務ですが、日本の輸出者が書類を用意できないと輸入者が対応できません |
忘れがちな追加ポイント
- DUNSナンバー:施設登録にはFDAが認めるUFI(現状はDUNSナンバー)が必要
- ラベル表示:栄養成分表示、アレルゲン表示、原産国表示など、FDA基準に沿った米国向けラベルが必要
- FSMA 204(食品トレーサビリティ規則):対象食品(一部の魚介類、チーズ、生鮮野菜など)の記録保持義務。コンプライアンス期限は2028年7月20日に延期済み
9. 対米食品輸出の実務チェックリスト
関税まわり
- 自社全SKUの10桁HTSコードを確定し、MFN税率を hts.usitc.gov で確認した
- 各SKUについて「MFN < 12.5%」か「MFN ≥ 12.5%」かを判定した
- 除外Annexに自社のHTSコードが含まれるか確認した
- 包装資材(缶・アルミ)が232条の対象に該当しないか確認した
- 在途貨物の7月28日期限を通関業者と確認した
- 2025年のIEEPA関税の還付請求(CAPE)状況を確認した
- 日米貿易協定に基づく特恵税率(JPレート)の対象品目かどうか、また12.5%の計算とどう干渉するかを通関業者に確認した
FDAまわり
- 施設登録が有効で、2026年10〜12月の更新スケジュールをカレンダーに入れた
- US Agentの契約と連絡先が最新である
- Prior Noticeの運用フローが確立している
- 米国側輸入者のFSVP文書一式(危害分析、供給業者評価、検証記録)が揃っている
- 米国向けラベルがFDA基準を満たしている
価格・契約
- 12.5%(または除外なら0%)を前提に着地原価と卸価格を再計算した
- 米国側バイヤーとの契約に、関税変動時の負担分担条項があるか確認した
- インコタームズ(DDP/DAP等)で誰が関税を負担するか明確になっている
10. よくある質問
Q. 12.5%は既存の関税に上乗せされるのですか? いいえ。日本産品については「MFN税率と301条関税の合計が12.5%になる」方式です。MFNが12.5%以上なら301条関税はゼロです。
Q. 以前の「日米合意15%」はどうなったのですか? 15%の上限は、IEEPA相互関税を前提とした枠組みでした。最高裁の判決でIEEPA関税が無効になったことで、その前提が失われています。今回の301条では日本産品の上限が12.5%として設定されています。
Q. この関税もまた裁判で覆る可能性はありますか? 可能性は否定できません。ただし通商法301条は、第1次トランプ政権の対中関税でも使われた実績があり、IEEPAより法的基盤は安定していると一般に評価されています。とはいえ、「変わる前提」で在庫と価格を設計するのが安全です。
Q. 日本の食品はほとんど除外されるのでは? いいえ。除外されるのは茶(0902)・コーヒー・カカオ・香辛料など、米国内で十分に生産できない一次産品が中心です。醤油・味噌・麺類・菓子・調味料といった加工食品の多くは除外対象外で、合計12.5%が適用されます。
Q. 抹茶はどうなりますか? 茶葉・抹茶そのものは HTS 0902 に分類され、除外リスト(9903.05.86)に全枝番が入っています。したがって301条関税はかからず、MFN税率のみです(無香料の 0902.10.90 はMFNも無税なので合計0%)。ただし、砂糖や乳成分を加えた抹茶ラテミックス、抹茶チョコレートなどは0902から外れ、多くが12.5%の対象になります。同じ「抹茶商品」でも分類次第で0%と12.5%に分かれる点に注意してください。
11. 一次情報リンク
- USTR プレスリリース/ファクトシート(2026年7月23日):ustr.gov
- USTR 官報案(Federal Register Notice、Annex I・II を含む):ustr.gov
- CBP CSMS #69326983「GUIDANCE: Section 301 Forced Labor Import Duties」および添付の Forced Labor HTS List(除外HTSコード一覧)
- 米国国際貿易委員会 HTS検索:hts.usitc.gov
- CBP IEEPA還付(CAPE)案内:cbp.gov
- FDA 食品施設登録:fda.gov
- ジェトロ「米国関税措置への対応」:jetro.go.jp/world/us_tariff/
- 農林水産省「農林水産物・食品分野に係る米国の関税措置への対応」(特別相談窓口あり)
12. 本記事の位置づけと注意事項
本記事は2026年7月24日時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、法的助言・関税分類の助言ではありません。個別品目の税率、除外該当性、通関手続きについては、必ず米国の通関業者(Licensed Customs Broker)および貿易法務の専門家に確認してください。
米国の通商政策は2025年以降、数か月単位で変更が繰り返されています。実務判断の前に、USTR・CBPの最新告示を必ず確認することをおすすめします。


