【2026年版】簡易FSVPの適用条件|ハザード分析も現地監査も省略?小規模輸入者向け制度

「FSVPが必要なのは分かったが、ハザード分析も年1回の現地監査も、うちの規模では現実的ではない」——アメリカへの食品輸出を検討する中で、そう感じた企業は少なくないはずです。実は、FSVP規則には小規模事業者向けに大幅に簡略化された「修正要件(Modified Requirements)」、いわゆる簡易FSVPが用意されています。条件を満たせば、ハザード分析も現地監査も不要となり、供給業者からの書面1枚で検証義務を満たすことができます。本記事では、簡易FSVPの適用条件、2026年時点の最新の売上基準額、実際に必要な書類まで、条文(21 CFR 1.512)に沿って具体的に解説します。

※本記事は2026年7月時点の情報にもとづいています。

目次

1. 簡易FSVP(修正FSVP)とは

簡易FSVPとは、21 CFR 1.512に定められた修正FSVP要件(Modified FSVP Requirements)のことです。条文の見出しは「零細輸入業者である場合、または特定の小規模外国供給業者から食品を輸入する場合に、どのようなFSVPを持つことができるか」となっています。

通常FSVPとの違い

通常のFSVPでは、ハザード分析、供給業者の評価・承認、検証活動(現地監査・試験・記録レビュー)という一連のプロセスが求められます。簡易FSVPでは、これらの中核部分が「供給業者からの書面保証を取得する」という一点に置き換わります。

項目 通常FSVP 簡易FSVP(零細輸入業者)
ハザード分析 必要(文書化必須) 不要
供給業者の評価・承認 必要 不要
検証活動(現地監査等) 必要(SAHCODHAは年1回の実地監査) 不要
供給業者からの書面保証 必要(2年ごと)
適格性の文書化 必要(毎年12月31日まで)
是正措置 必要 必要
通関時の輸入業者特定(DUNS番号) 必要 必要

重要:これは「任意の制度」です

条文の見出しが「must(〜しなければならない)」ではなく「may(〜することができる)」である点に注目してください。簡易FSVPは義務ではなく、条件を満たす輸入者が選択できるオプションです。したがって、適用を受けるためには「自社が条件を満たしていること」を自ら文書で証明する責任が生じます。

2. 誰が使えるのか?2つの入口

簡易FSVPの適用対象になる経路は2つあります。どちらか一方を満たせば適用可能です。

入口① 零細輸入業者(Very Small Importer / VSI)である

輸入者自身の規模が小さい場合です。日本からの食品輸入を始めたばかりの米国法人や、少量のテスト輸入を行う商社などが該当します。具体的な金額基準は次章で詳しく解説します。

入口② 特定の小規模な外国供給業者から輸入している

輸入者の規模にかかわらず、供給業者側が以下のいずれかに該当する場合です:

  • 適格施設(Qualified Facility):21 CFR 117.3(ヒト向け食品)または507.3(動物向け食品)に定義される適格施設に相当する外国供給業者
  • 対象農家ではない農場:21 CFR 112.4(a)、または112.4(b)および112.5に基づき、農産物安全規則(Part 112)の対象農家に該当しない農場から農産物を輸入する場合
  • 採卵鶏3,000羽未満の殻付き卵生産者:採卵鶏が3,000羽未満であるため21 CFR Part 118の対象外となる生産者から殻付き卵を輸入する場合

日本の小規模な味噌蔵、醤油蔵、茶園、菓子製造者などは、規模によっては「適格施設」相当と評価できる場合があります。ただしこの判定には慎重な検討が必要です。

注意:入口②のみで適用を受ける場合(=輸入者自身は零細輸入業者ではない場合)、後述する追加要件が課されます。最も負担が軽いのは、入口①の零細輸入業者に該当するケースです。

3. 2026年の売上基準額(インフレ調整後の実額)

ここが実務上、最も誤解の多いポイントです。

条文上の基準額は「2011年時点の金額」

21 CFR 1.500の定義では、零細輸入業者の基準額は次のように定められています:

  • ヒト向け食品:年間平均100万米ドル未満(インフレ調整後
  • 動物向け食品:年間平均250万米ドル未満(インフレ調整後

この100万ドル/250万ドルは2011年を基準年とした金額であり、実際に適用される金額はGDPデフレーターによって毎年上方修正されます。FDAは「FSMA Inflation Adjusted Cut Offs」ページで調整後の実額を公表しており、毎年4月頃に更新しています。

2026年に適用される実額

2026年に食品を輸入する場合、判定に用いるのは2023年・2024年・2025年の3年間の平均です(条文上、判定対象期間は「輸入を行う暦年の1年前に終わる3年間」と定められています)。FDAが公表している該当期間の調整後の値は以下のとおりです:

区分 条文上の基準額(2011年基準) 2026年の判定に用いる実額
(2023〜2025年の3年平均値)
ヒト向け食品 $1,000,000 $1,372,952
動物向け食品 $2,500,000 $3,432,379

つまり、額面の100万ドルではなく、約137万ドルが実際のラインです。「売上が100万ドルを超えたから簡易FSVPは使えない」と判断していた企業でも、実際には対象に収まっているケースが少なくありません。

ご注意:上記の金額は2026年時点の公表値です。毎年更新されるため、判定の際は必ずFDAの公表ページで最新値をご確認ください。また、ヒト向け食品と動物向け食品は別々に判定します。片方だけが零細輸入業者に該当する、ということもあり得ます。

4. 売上の数え方でよくある3つの誤解

金額のラインを正しく理解していても、分子となる「売上」の数え方を誤ると判定を間違えます。条文の定義を正確に読むと、以下の3点が重要です。

誤解1:「食品の販売額だけを数えればよい」

誤りです。条文では「食品の売上高」に加えて、「販売を伴わずに輸入・製造・加工・包装・保管した食品の米国市場価値」も合算すると定められています。

たとえば、手数料ベースで他社のために食品を輸入している場合、その食品は自社の売上には計上されませんが、米国市場価値として合算対象になります。受託輸入や3PL的な業務を行っている場合は特に注意が必要です。

誤解2:「自社単体の数字で判定する」

誤りです。条文は「輸入者(子会社および関連会社を含む)」と明記しています。グループ会社がある場合、その分も合算して判定します。日本の親会社の下に米国法人がある構成では、この点が判定を大きく左右します。

誤解3:「円建ての売上はざっくり換算でよい」

誤りです。条文は、米ドル以外の通貨での食品売上について、「売上が発生した年の12月31日時点の為替レート」を用いて換算することを求めています。年間平均レートや取引時レートではありません。判定根拠として記録に残す際は、この点を明示しておくことが重要です。

5. 何が免除され、何が残るのか

簡易FSVPを選択した場合、FSVP規則のどの条項が適用され、どの条項が免除されるかは条文で明確に線引きされています。

免除される条項

条項 内容
§ 1.504 ハザード分析
§ 1.505 供給業者の承認・検証のための評価
§ 1.506 供給業者検証活動(現地監査・サンプリング試験・記録レビュー等)
§ 1.507 輸入後にハザードが管理される食品に関する要件
§ 1.508 通常FSVPにおける是正措置の要件
§ 1.510 通常FSVPの記録保持要件

免除されない条項

条項 内容 実務上の意味
§ 1.502 FSVPを持つこと 食品ごと・供給業者ごとにFSVPを整備する義務は残ります
§ 1.503 適格者(Qualified Individual)による実施 FSVPの策定と実施は適格者が行う必要があります
§ 1.509 通関時の輸入業者の特定 DUNS番号の申告義務は免除されません

さらに、1.512自体が定める要件として、適格性の文書化・書面保証の取得・是正措置・記録保持が課されます。「簡易」とはいえ、何もしなくてよいわけではありません。

「適格者」とは誰か

21 CFR 1.500では、適格者(Qualified Individual)を「当該業務の遂行に必要な教育、訓練または経験(あるいはその組み合わせ)を有し、業務上レビューする記録の言語を読んで理解できる者」と定義しています。重要なのは以下の2点です:

  • 適格者は輸入者の従業員である必要はありません(外部委託が可能)
  • 政府職員(外国政府職員を含む)も適格者になり得ます

また「記録の言語を読んで理解できる」という要件は見落とされがちです。供給業者から日本語の食品安全記録を受け取る場合、その日本語を理解できる者が適格者である必要があります。日米にまたがる輸入では、この要件が実質的に人材の制約になることがあります。

6. 書面保証(Written Assurance)の中身と頻度

簡易FSVPの中核は、供給業者から取得する書面保証です。どの経路で適用を受けるかによって、保証すべき内容が異なります。

ケース別の書面保証の内容

適用経路 書面保証に含めるべき内容
零細輸入業者として適用を受ける場合 供給業者が、FD&C法418条(予防コントロール)または419条(農産物安全基準)が適用される場合はそれと同等以上の公衆衛生保護を提供する加工・手順を順守して食品を製造していること、かつFD&C法402条(不良品)および該当する場合は403条(w)(アレルゲン表示)に適合して製造していること
供給業者が適格施設の場合 供給業者が該当するFDA食品安全規則(またはFDAが同等と認めた国の関連法規)に適合して製造していること。加えて、次のいずれかを含める必要があります:
(A) 該当ハザードを管理するために供給業者が実施している予防コントロールの簡潔な説明
(B) 供給業者が州・地方・郡・部族その他の連邦法以外の食品安全法(外国の関連法規を含む)に適合しているという記述
供給業者が対象農家ではない農場の場合 当該農場が、自らの食品はFD&C法402条の適用を受けることを認識している旨(またはFDAが同等と認めた国の関連法規の適用を受ける旨)
供給業者が採卵鶏3,000羽未満の殻付き卵生産者の場合 上記と同様の認識を示す旨

取得のタイミングと更新頻度

頻度の要件は2種類あり、混同しやすいので整理します。

対象 初回 更新頻度
供給業者からの書面保証(食品の安全性に関するもの) 食品を輸入する前 少なくとも2年ごと
零細輸入業者としての適格性の文書化 零細輸入業者として最初に輸入する前 毎年12月31日まで
小規模供給業者としての適格性に関する書面保証 当該暦年について供給業者を初めて承認する前 毎年12月31日まで(翌暦年分として)

実務上は、毎年12月に「年次更新作業」としてまとめて処理する運用にしておくと漏れが防げます。

是正措置は免除されない

供給業者が書面保証の内容どおりに食品を製造していないと判断した場合、速やかに適切な是正措置を講じ、それを文書化する義務があります。是正措置の内容は状況によりますが、不適合・不良・不当表示の原因が十分に対処されるまで当該供給業者の使用を中止することも含まれ得ます。なお、この規定はリコールなど他のFDA所管法令上の義務を制限するものではありません。

7. 零細輸入業者ではない場合の追加要件

小規模供給業者から輸入しているが、輸入者自身は零細輸入業者に該当しない場合、21 CFR 1.512(c)により以下の追加要件が課されます。この点はしばしば見落とされます。

① 供給業者のコンプライアンス履歴の評価

供給業者を承認する際、該当するFDA食品安全規則と、その規則への供給業者の適合状況に関する情報を評価し、文書化する必要があります。評価には、当該供給業者がFDAのウォーニングレター、輸入警告(インポートアラート)、その他のFDAによる食品安全関連の措置の対象となっているかという点を含めなければなりません。

② 再評価

上記の事項について新しい情報を知った場合は、速やかに再評価し文書化します。懸念事項が変化したと判断した場合は、当該供給業者からの輸入を継続することが適切かどうかを速やかに判断し、文書化する必要があります。いずれの3年間においても再評価を行っていない場合は、その時点で再評価を実施しなければなりません。

③ 供給業者の承認

上記の評価にもとづいて供給業者を承認し、承認したことを文書化します。

④ 承認済み供給業者のみを使用する手順書

承認済みの供給業者からのみ食品を輸入することを確実にするためのwritten procedures(手順書)を策定し、それに従い、その使用実績を文書化する必要があります。

なお、①〜④について、適格者を用いて他の事業者が実施した評価・再評価・手順を、輸入者がレビューし評価することで要件を満たすことも認められています。その場合、レビューと評価の内容、および評価が適格者によって実施されたことを文書化する必要があります。

8. 記録保持のルール

簡易FSVPでは通常の記録保持条項(§ 1.510)は適用されませんが、1.512自体が独自の記録要件を定めています。内容は通常FSVPとほぼ同等です。

記録の形式

  • 原本、真正な写し(コピー、写真、スキャン、マイクロフィルム等)、または電子記録として保管する
  • FSVPに関する記録には、初回作成時および変更時に署名と日付を記入する
  • 判読可能で、劣化や紛失を防ぐ状態で保管する

FDAへの提供

  • FDAの要請があれば、閲覧・複写のため速やかに提供する
  • 英語以外の言語の記録は、要請があれば合理的な期間内に英訳を提供する
  • オフサイト保管も可能。ただし要請から24時間以内に現地で提示できることが条件。電子記録は現地からアクセス可能であれば「オンサイト」とみなされます
  • FDAが書面で要請した場合は、事業所での閲覧に代えて電子的手段等で速やかに送付する

保持期間

記録の種類 保持期間
原則(書面保証、是正措置の記録など) 作成または取得から2年間
零細輸入業者としての地位を裏付ける記録 3年間
1.512(c)対象者の手順書・供給業者評価結果など 使用を中止してから2年間

売上高の裏付け資料が3年保持である点は要注意です。判定期間そのものが3年間であるため、通常の2年では足りません。

既存記録の活用が可能

FSVPで求められる情報がすでに他の記録(他の連邦法・州法・地方法の遵守のために保管している記録など)に含まれている場合、それを重複して作成する必要はありません。不足分を補足すれば足ります。また、FSVPに必要な情報を1つのファイルにまとめる必要もなく、既存記録と別管理でも、統合しても構いません。会計記録や輸出入書類をそのまま流用できるケースは多くあります。

9. 簡易FSVPを使う際の5つの注意点

注意点1:DUNS番号は免除されない

前述のとおり、通関時の輸入業者特定(§ 1.509)は簡易FSVPでも適用されます。DUNS番号の取得と申告は必須です。「簡易FSVPだから通関手続きも簡略化される」ということはありません。

注意点2:基準を超えたら通常FSVPへ移行が必要

零細輸入業者の判定は毎年行います。事業が成長して基準額を超えた場合、翌年からは通常FSVPへの移行が必要になります。ハザード分析や供給業者評価を一から構築するには相応の時間がかかるため、基準額に近づいてきた段階で準備を始めるのが現実的です。

注意点3:適格性の文書化を怠ると制度自体が使えない

簡易FSVPは任意の制度であり、適格性を自ら文書で示すことが適用の前提です。査察時に「零細輸入業者であることを裏付ける記録」を提示できなければ、通常FSVPの要件で評価されることになります。この場合、ハザード分析も供給業者評価も未実施という状態になり、重大な不備として扱われる可能性があります。

注意点4:書面保証は「もらって終わり」ではない

取得した書面保証の内容と、実際の製造実態が乖離していると判断される事象が生じた場合には、是正措置の義務が発生します。書面保証は形式的な書類ではなく、供給業者との継続的なコミュニケーションの起点と位置づけるべきものです。

注意点5:他の規制の免除ではない

簡易FSVPはあくまでFSVP規則内での簡略化です。施設登録、事前通知(Prior Notice)、ラベル表示要件、食品トレーサビリティ規則(FSMA 204)など、他の規制の適用が免除されるわけではありません。特にラベル表示については、アレルゲン未表示が米国のリコール原因の第1位を占めており、規模にかかわらず厳密な対応が求められます。

10. まとめと無料相談のご案内

簡易FSVPは、小規模な輸入者や小規模な供給業者からの輸入について、FSVP対応の負担を大幅に軽減できる制度です。要点を整理すると:

  • 簡易FSVPは21 CFR 1.512に定められた任意の制度で、適用には自らの適格性の文書化が必要
  • 適用の入口は「零細輸入業者である」か「小規模な外国供給業者から輸入している」かの2つ
  • 2026年の判定ラインは、額面の100万ドルではなく約137万ドル(ヒト向け食品)
  • 売上の集計には販売を伴わない食品の米国市場価値、および子会社・関連会社の分も合算する
  • ハザード分析・供給業者評価・検証活動は免除されるが、書面保証・是正措置・記録保持・DUNS番号申告は残る
  • 書面保証は2年ごと、適格性の文書化は毎年12月31日までに更新する
  • 零細輸入業者に該当しない場合は、供給業者のコンプライアンス履歴の評価など追加要件が課される

「自社は簡易FSVPの対象になるのか」「どこまでの書類を揃えればよいのか」は、輸入形態・取引ストラクチャー・供給業者の規模によって結論が変わります。判定を誤ったまま輸入を続けると、査察時に想定外の指摘を受けるリスクがあります。

アメリカへの食品輸出をお考えの企業様へ

弊社では、簡易FSVPの適用可否の判定から、書面保証のひな形作成、供給業者との調整、記録ファイルの構築まで一貫してサポートしています。まずは無料相談で、貴社の輸入形態にどの選択肢が適しているかをご確認ください。経験豊富な専門家が、最適なソリューションをご提案いたします。

【2026年7月24日発動】トランプ新関税12.5%で日本からの食品輸出はどう変わる?

米国トランプ政権は2026年7月23日、通商法301条に基づく新たな追加関税を正式発表しました。日本を含む60の国・地域が対象で、米国東部時間7月24日午前0時1分(日本時間24日午後1時1分)に発動します。

日本から米国へ食品を輸出している、あるいはこれから始めようとしている事業者にとって、これは「税率が変わった」だけの話ではありません。計算方法そのものが変わったため、品目によっては負担が増える会社と、逆に減る会社が同時に発生します。

この記事では、公式資料(USTRの官報案・ファクトシート)にあたって確認した内容をもとに、対米食品輸出の実務に必要な部分だけを整理します。


目次


1. 結論:まず押さえるべき5点

  1. 日本産品の新税率は「MFN税率と合わせて12.5%」(上乗せではなく合計値の上限)
  2. 発動は2026年7月24日 0:01 AM ET。それまで適用されていた一律10%の代替関税(通商法122条)は同日失効
  3. MFN税率が12.5%以上の品目は、301条関税ゼロ(つまり実質的に据え置き)
  4. 茶・コーヒー・香辛料など一部の農産品は除外リスト(Annex)に入っているとされる。自社のHTSコードが除外対象かどうかで結論が180度変わる
  5. 関税以外の要件(FDA施設登録・FSVP・Prior Notice)は一切変わっていない。2026年は施設登録の更新年(10月1日〜12月31日)

2. ここまでの経緯:1年で3回変わった法的根拠

対米輸出の関税がここまで分かりにくくなっているのは、課税の「法的根拠」が短期間に3回も差し替わったためです。

時期 根拠法 日本産品への扱い
2025年〜2026年2月 IEEPA(国際緊急経済権限法)による相互関税 日米合意により、MFNと合わせて15%が上限
2026年2月20日 連邦最高裁がIEEPA関税を無効と判断 徴収停止・還付へ
2026年2月24日〜7月24日 通商法122条(国際収支対応の暫定課徴金) 全世界一律10%をMFNに上乗せ(150日間の時限措置)
2026年7月24日〜 通商法301条(強制労働品の輸入禁止措置の不備を理由) MFNと合わせて12.5%

ポイントは、**122条の10%は「上乗せ」だったのに対し、301条の12.5%は「合計値の上限」**であることです。ここを取り違えると、着地コストの計算が丸ごとずれます。

なお今回の301条は「強制労働で生産された産品の輸入禁止措置を、各国が導入・執行していない」ことを理由としています。USTRは日本についても「輸入禁止措置が導入されていない」と認定し、より高い12.5%の区分に分類しました。対象は米国の輸入額の約99.4%をカバーする60の貿易相手です。


3. 「MFN差分方式(net of MFN)」の仕組み

USTRの官報案では、日本産品について次のように規定されています。

  • MFN税率が 12.5%未満 の場合 → MFN + 301条関税 = 12.5% になるよう301条関税を課す
  • MFN税率が 12.5%以上 の場合 → 301条関税は0%

つまり日本産品の追加関税は「12.5%の天井」として機能します。

計算例(MFN税率別)

MFN税率 7月23日まで(MFN + 122条10%) 7月24日から(301条・合計12.5%) 差分
0% 10.0% 12.5% +2.5pt
3.0% 13.0% 12.5% −0.5pt
6.4% 16.4% 12.5% −3.9pt
12.5% 22.5% 12.5% −10.0pt
20.0% 30.0% 20.0%(301条ゼロ) −10.0pt

MFNが無税の品目だけが負担増になり、MFNが高い加工食品はむしろ下がるという、直感に反する構造です。自社商品がどちらに転ぶかは、HTSコードを引かないと判断できません。

注意: 上表のMFN税率は仕組みを説明するための例示です。実際の税率は必ず米国国際貿易委員会のHTS検索(hts.usitc.gov)で自社の10桁コードを確認してください。

HTSコードの「7〜8桁目」が命運を分ける

食品では、わずかな仕様差で税率が変わります。緑茶を例にとると、同じ0902.10でも枝番によってMFN税率が異なり、フレーバー付きかどうかで扱いが変わります。「だいたいこの分類」で通してきた会社ほど、今回の変更で想定外のコストが出ます。


4. 除外される品目:3つのカテゴリ

今回の301条関税には、以下が対象外とされています。

(1) 通商法232条の対象品目

鉄鋼・アルミ・銅などの232条関税がかかる品目と、その部品は301条の対象外です。301条と232条は積み上がりません。

食品事業者にとっての盲点は包装資材です。2026年4月の大統領布告で232条の派生品規制が見直され、対象品目は課税価格の全額に対して課税される方式に変わりました。缶・アルミ箔・金属製容器を含む商材は、自社のHTSコードが232条リストに載っていないか確認が必要です。

(2) Annex I / Annex II の除外品目

USTRは、①国内供給が確保できなくなる原材料、②経済全体に混乱を与える産品、③米国内で十分な量を生産・栽培できない産品、などを除外リストに指定しました。全対象国に共通で適用される除外は、CBPのガイダンス(CSMS #69326983)で 9903.05.86 として整理されており、対応するHTSコードの一覧が「Forced Labor HTS List」として公表されています。

食品分野で除外対象に入っている主なものは以下のとおりです。

分野 除外されているHTS(例)
茶(緑茶・抹茶を含む) 0902.10.10 / 0902.10.90 / 0902.20.10 / 0902.20.90 / 0902.30.00 / 0902.40.00
コーヒー 0901.11.00 / 0901.12.00 / 0901.21.00 / 0901.22.00 ほか
カカオ・チョコレート原料 1801.00.00 / 1802.00.00 / 1803 / 1804 / 1805
香辛料 0904〜0910の多く(こしょう、シナモン、ナツメグ、しょうが等)
牛肉 0201 / 0202 の多く
一部の豆・いも・ナッツ・熱帯果実 0713 / 0714 / 0801〜0812 の一部
茶のエキス(一部) 2101.20.20

→ 注意すべきは「同じ原料でも加工度が上がると除外から外れる」点です。 例えば茶葉・抹茶そのもの(0902)は除外ですが、砂糖や乳成分を加えた抹茶ラテミックスやチョコレート菓子は別の分類(2101.20の他の枝番、1806、2106など)になり、多くが課税対象です。

除外対象かどうかは、必ず10桁のHTSコード単位で「Forced Labor HTS List」を確認してください。「農産品だから大丈夫」という一般論では判断できません。

(3) 情報資料・寄贈品・携帯手荷物

商業輸出には基本的に無関係ですが、サンプルの持ち込み等では確認する価値があります。


5. 発動直前・直後の実務対応

在途貨物(in-transit)の救済措置がある

以下の両方を満たす貨物は、新関税の対象外です。

  • 2026年7月24日 0:01 AM ET より前に、船積港で本船に積み込まれ、最終輸送区間を輸送中であること
  • 2026年7月28日 0:01 AM ET より前に、消費のための輸入申告(または保税倉庫からの引き取り)が完了していること

該当しそうな貨物がある場合は、通関業者に「7月28日の期限内に申告できるか」を今すぐ確認してください。 4日間しかありません。

FTZ(外国貿易地域)を使っている場合

新関税の対象品目をFTZに搬入する場合、原則として「privileged foreign status」でのみ搬入が認められます。FTZを使った関税繰り延べ戦略を組んでいる場合は、設計の見直しが必要です。


6. 2025年に払ったIEEPA関税は還付される

見落とされがちですが、2025年3月〜2026年2月にIEEPA関税を支払った輸入者は還付請求ができます。

  • 連邦最高裁が2026年2月20日にIEEPA関税を無効と判断
  • CBPは**CAPE(Consolidated Administration and Processing of Entries)**という仕組みをACEポータル内に構築し、2026年4月20日からPhase 1の請求受付を開始
  • 請求は自動ではなく、輸入者(IOR)または権限を持つ通関業者がCSV形式の「CAPE Declaration」をアップロードする方式
  • 還付はACHによる電子送金のみ。ACE口座に米国銀行口座(ACH Refund Authorization)が登録されていないと、還付がreject扱いになります

日本の輸出者が米国側のIOR(輸入者)を務めているケース、あるいは自社の米国法人がIORになっているケースでは、放置すると取り戻せる現金を取り逃します。 通関業者に「うちのIEEPA分の請求状況はどうなっているか」を確認してください。

還付対象はIEEPA分のみで、MFN・232条・301条など適法に徴収された税は対象外です。


7. 少額貨物(de minimis)はもう戻ってこない

DTCやAmazon FBAの直送を検討している事業者に、最も影響が大きいポイントです。

  • 800ドル以下の免税枠(de minimis)は2025年8月29日に全世界向けに停止
  • 最高裁のIEEPA判決でも復活していません(根拠となる法的権限が別だったため)
  • さらに法律上、2027年7月1日に商業貨物向けは恒久的に廃止されます

つまり、「小口で送れば関税がかからない」という前提の価格設計はもう成立しません。 すべての貨物に正式な通関と関税が発生する前提で、着地原価を組み直す必要があります。


8. 関税より先に詰めるべき:FDA側の要件

関税の話題に気を取られがちですが、FDA要件を満たしていない食品はそもそも米国に入りません。 税率がいくらであっても関係ありません。

必須の4点

要件 内容
施設登録(Food Facility Registration) 製造・加工・包装・保管を行う施設はFDAに登録。2026年は更新年で、10月1日〜12月31日が更新期間。期限を過ぎると登録は失効し、貨物は輸入拒否されます
US Agent(米国代理人) 外国施設は米国内の代理人を指定する必要があります
Prior Notice(事前通知) 出荷ごとに提出。到着の15日前以降、かつ航空便は到着2時間前まで、海上・陸上は4時間前までに提出
FSVP(外国供給業者検証プログラム) 米国側の輸入者が、供給業者の食品安全を検証する義務を負います。輸入者側の義務ですが、日本の輸出者が書類を用意できないと輸入者が対応できません

忘れがちな追加ポイント

  • DUNSナンバー:施設登録にはFDAが認めるUFI(現状はDUNSナンバー)が必要
  • ラベル表示:栄養成分表示、アレルゲン表示、原産国表示など、FDA基準に沿った米国向けラベルが必要
  • FSMA 204(食品トレーサビリティ規則):対象食品(一部の魚介類、チーズ、生鮮野菜など)の記録保持義務。コンプライアンス期限は2028年7月20日に延期済み

9. 対米食品輸出の実務チェックリスト

関税まわり

  • 自社全SKUの10桁HTSコードを確定し、MFN税率を hts.usitc.gov で確認した
  • 各SKUについて「MFN < 12.5%」か「MFN ≥ 12.5%」かを判定した
  • 除外Annexに自社のHTSコードが含まれるか確認した
  • 包装資材(缶・アルミ)が232条の対象に該当しないか確認した
  • 在途貨物の7月28日期限を通関業者と確認した
  • 2025年のIEEPA関税の還付請求(CAPE)状況を確認した
  • 日米貿易協定に基づく特恵税率(JPレート)の対象品目かどうか、また12.5%の計算とどう干渉するかを通関業者に確認した

FDAまわり

  • 施設登録が有効で、2026年10〜12月の更新スケジュールをカレンダーに入れた
  • US Agentの契約と連絡先が最新である
  • Prior Noticeの運用フローが確立している
  • 米国側輸入者のFSVP文書一式(危害分析、供給業者評価、検証記録)が揃っている
  • 米国向けラベルがFDA基準を満たしている

価格・契約

  • 12.5%(または除外なら0%)を前提に着地原価と卸価格を再計算した
  • 米国側バイヤーとの契約に、関税変動時の負担分担条項があるか確認した
  • インコタームズ(DDP/DAP等)で誰が関税を負担するか明確になっている

10. よくある質問

Q. 12.5%は既存の関税に上乗せされるのですか? いいえ。日本産品については「MFN税率と301条関税の合計が12.5%になる」方式です。MFNが12.5%以上なら301条関税はゼロです。

Q. 以前の「日米合意15%」はどうなったのですか? 15%の上限は、IEEPA相互関税を前提とした枠組みでした。最高裁の判決でIEEPA関税が無効になったことで、その前提が失われています。今回の301条では日本産品の上限が12.5%として設定されています。

Q. この関税もまた裁判で覆る可能性はありますか? 可能性は否定できません。ただし通商法301条は、第1次トランプ政権の対中関税でも使われた実績があり、IEEPAより法的基盤は安定していると一般に評価されています。とはいえ、「変わる前提」で在庫と価格を設計するのが安全です。

Q. 日本の食品はほとんど除外されるのでは? いいえ。除外されるのは茶(0902)・コーヒー・カカオ・香辛料など、米国内で十分に生産できない一次産品が中心です。醤油・味噌・麺類・菓子・調味料といった加工食品の多くは除外対象外で、合計12.5%が適用されます。

Q. 抹茶はどうなりますか? 茶葉・抹茶そのものは HTS 0902 に分類され、除外リスト(9903.05.86)に全枝番が入っています。したがって301条関税はかからず、MFN税率のみです(無香料の 0902.10.90 はMFNも無税なので合計0%)。ただし、砂糖や乳成分を加えた抹茶ラテミックス、抹茶チョコレートなどは0902から外れ、多くが12.5%の対象になります。同じ「抹茶商品」でも分類次第で0%と12.5%に分かれる点に注意してください。


11. 一次情報リンク

  • USTR プレスリリース/ファクトシート(2026年7月23日):ustr.gov
  • USTR 官報案(Federal Register Notice、Annex I・II を含む):ustr.gov
  • CBP CSMS #69326983「GUIDANCE: Section 301 Forced Labor Import Duties」および添付の Forced Labor HTS List(除外HTSコード一覧)
  • 米国国際貿易委員会 HTS検索:hts.usitc.gov
  • CBP IEEPA還付(CAPE)案内:cbp.gov
  • FDA 食品施設登録:fda.gov
  • ジェトロ「米国関税措置への対応」:jetro.go.jp/world/us_tariff/
  • 農林水産省「農林水産物・食品分野に係る米国の関税措置への対応」(特別相談窓口あり)

12. 本記事の位置づけと注意事項

本記事は2026年7月24日時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、法的助言・関税分類の助言ではありません。個別品目の税率、除外該当性、通関手続きについては、必ず米国の通関業者(Licensed Customs Broker)および貿易法務の専門家に確認してください。

米国の通商政策は2025年以降、数か月単位で変更が繰り返されています。実務判断の前に、USTR・CBPの最新告示を必ず確認することをおすすめします。